エリオットは小さな王国の小さな町で生まれました。 彼の家は小さな靴屋で、お父さんとお母さんは毎日靴を作ったり、直したりしていました。 5才になるころ、彼はお父さんやお母さんに喜んでもらいたくて、靴底の革を自動的にくり抜いてくれる機械を作りました。 お父さんとお母さんはとてもエリオットを誉めました。彼はとても嬉しかったので、もっとすごいことをしてあげられるよう一生懸命勉強するようになりました。 エリオットが10才になるころ、彼の家に王国の偉い人がやってきました。その人は彼に大きな町の学校に行かないかと言いました。 学校に通うためのお金がないと言うと、その人はそのお金も出してくれると言いました。 それで、エリオットは大きな町の学校に通うことになりました。 学校では、分からないことばかりでした。回りの友達や先生が何を言っているのかちっとも分かりません。エリオットは悲しくなって、家に帰りたくなりました。でも、すぐに新しいことを覚えていくのが楽しくなってきました。そうです、知らないことは覚えていけばいいのです。 そのうちにエリオットは先生も舌を巻くほどのたくさんの知識を身につけるようになっていきました。 エリオットが15才になるころ、お父さんが病気で死んでしまったので、彼は学校に行くのをやめて、靴屋になることにしました。 校長先生が学校に残るように彼を説得しましたが、エリオットは学校に通わなくても勉強を続けていくと言って、町に帰り靴屋になりました。 靴を作りながら、エリオットは一人でいろいろなことを学んでいきました。どうして夏は暑いのか、どうして人は病気になるのか、どうしてこの国はとなりの国と仲が悪いのか。 そして彼は靴を作りながら、自分の知っていることを人に教えてあげるようになりました。 いろいろな人がエリオットを訪ねてくるようになりました。近所の人たちから町の反対側に住んでいる人たちまで。やがて遠くの町に住んでいる人や、町の偉い人たちも話を聞きに来るようになりました。 エリオットは人と話すことが好きでしたし、話をした人が喜んで帰っていくのを見て、とても嬉しく思いました。 みんなにもっと喜ばれるようになりたいと思い、彼はさらにたくさんいろいろなことを学ぶようになりました。 エリオットが20才になるころ、王国の大臣が訪ねてきました。そして彼に向かって言いました。「光の魔法使いさま。大きな町に来て、王さまに仕えてもらえないでしょうか?」 エリオットはびっくりしました。いつの間にか、彼は『光の魔法使い』と呼ばれるようになっていたのです。「ぼくは魔法使いではありませんから、王さまに仕えることはできません」 そういうと今度は大臣がびっくりしました。「人々はあなたを、全てを照らす『光の魔法使い』と言って尊敬しているんですよ。だって、あなたは一月先の天気を言い当てたり、作物をたくさん実らせたり、死にかけた人を元気にしたり、不思議なことばかりできるではありませんか」 確かにエリオットは人の病気を治したり、便利な機械を作ったりすることができました。でもそれは彼がいろいろなことを学んで知っているからであって、決して不思議なことではありません。魔法使いと言われるほどのことだとは、どうしても思えませんでした。 だからエリオットは大臣には帰ってもらいました。靴屋の仕事も気に入っていましたし、沢山の偉い人に囲まれるのは苦手だったからです。 しかしその後も、大臣は何度も訪ねてきて、一生懸命エリオットを説得しました。「あなたの知っていることで、この国を豊かにしてください」 とうとうエリオットは、靴屋の仕事をやめてお母さんと一緒に王さまのところへ行くことになりました。 エリオットは王さまの側に仕えるようになり、王さまにいろいろなことを教えました。 王さまはエリオットのことをとても気に入りました。彼が何でも知っていたからです。王さまは何を決めるにも彼に相談するようになりました。 でも、一つだけ。王さまは彼の言うことを聞いてくれませんでした。 王さまはとなりの国が欲しくて欲しくてたまらなかったのです。 エリオットが25才になるころ、王さまはとなりの国と戦争を始めてしまいました。 エリオットは争いごとなどしたくなかったのですが、王さまを止めることができませんでした。 仕方がないので、戦争が早く終わるように彼は全力を尽くし、三月で争いを終わらせました。「おまえはすごいやつだなあ。この世の中におまえの目の届かないところはないに違いない」 戦争が終わってからも、王さまはエリオットをたくさん誉めました。「やっぱりおまえは魔法使いだ。これからもずっとわたしに仕えてくれ」「ぼくは魔法使いではありません」 エリオットは何度も言ってきたことを根気強く繰り返しました。「ぼくは靴屋の息子です。たくさんいろいろなことを知っているだけです」「それはそうかもしれないが、でも今は普通の人とは違うだろう」「それはたくさん勉強をしてきたからです」 そう答えると、王さまは声を上げて笑いました。「たくさん勉強をしたって、おまえのようにはなれないよ。なれるはずがない」 エリオットはそんなことはないと言いましたが、王さまは分かってくれませんでした。 でも、分かってくれないのは、王さまだけではありませんでした。 周りにいる人々はみんな王さまと同じようにエリオットを普通の人ではなく『魔法使い』として扱いました。 彼はやがて気づきました。 人々はエリオットが『魔法使い』になれたのは、最初から頭が良かったからだと信じていたのです。本当は彼が子供のころからたくさん勉強をし、いろいろなものを見てきたから、今のように頭が良くなったのてすが、そんなことは人々の目には入らなかったのです。 人々はいくら努力してもエリオットのようにはなれないと勝手に思い込んでいたので、誰もエリオットのようになろうとはしなくなりました。 王さまや王国の人々は彼に相談をするというより、その言葉を待つようになりました。 やがて王さまや王国の人々は自分で考えることをしなくなってしまいました。 30才になるころ、お母さんが病気で死んでしまったので、エリオットは王さまに仕えるのをやめて、旅に出ることにしました。 王国の誰もがそれを止めようとしましたが、彼を止めることのできる人はもう誰もいませんでした。 『光の魔法使い』でなくなった彼は一人で気楽に旅をしました。 以前は人にいろいろなことを教えるのが好きでした。しかし今は違います。 もう『魔法使い』扱いされるのにはこりごりでした。 35才になるころ、エリオットは旅の途中である女の人と知り合いました。 彼女の名前はアニーといって、楽器を弾いて歌ったり、踊ったりするのがとても上手な女の人でした。彼女は家族が死んでしまったので、一人で歌や踊りを披露しながらお金を稼いで暮らしていたのです。 エリオットはアニーに歌をつくってあげるようになり、二人はすっかり仲良くなりました。 エリオットは彼女のことがとても好きになりました。 今までもたくさんの女の人が彼のそばにいましたが、彼はだれも好きになれませんでした。彼女たちが好きだったのはエリオットではなく『光の魔法使い』だったのですから。 でも、アニーは違いました。 彼女はエリオットと普通に笑い合い、普通の人として接してくれました。 エリオットは彼女となら、ずっと一緒にいてもいいと思いました。 でも、アニーも同じように思ってくれるでしょうか。不安になって、彼はそのことをなかなか言い出せずにいました。 ある夜、エリオットが寝ていると、いつの間にかそばにアニーが立っていました。 彼女は今まで見たこともないぐらい怖い顔をしていました。 彼は気づかない振りをしましたが、しばらく考え、どうして彼女がそんな怖い顔をしていたのか分かりました。 エリオットは心を決め、翌朝、思い切ってアニーに尋ねてみました。「ぼくのせいで、きみは一人になったのかい?」 するとアニーはわっと泣き出しました。「そうよ、そうよ。ほんとうはあんたを殺してやろうと思ったのよ。でも、もういいの。あの人も坊やも帰ってこないから。それにあんたも悪い人じゃないし、普通の人だって分かったから」 エリオットも大好きなアニーを悲しませていたことを知って、心を痛めました。「君の悲しみをぼくにくれないか。その代わりにぼくの光をあげる」 アニーがエリオットを見つめると、彼は微笑みながら指を自分の眼に刺しました。 彼女はびっくりして、エリオットに駆け寄りました。「ぼくは『魔法使い』でもいい。君がそばにいてくれるなら」 目から涙と血を流しながら、エリオットはアニーを抱きしめました。「ぼくはきみの悲しみをもらった。きみはぼくの代わりにこの世界を見つめてくれ」 何度も何度も言うと、アニーも泣きながらうなづきました。 そして、盲目になったエリオットは、アニーとともに旅を続けました。旅先で彼は『魔法使い』と呼ばれたることもありましたが、もう気にはなりませんでした。 どんなに特別な人のように扱われても、本当の彼を知っている人がずっとそばにいてくれたからです。 その後、エリオットは『放浪の賢者』と呼ばれるようになり、貧しくて弱い人々を助けるために一生をかけました。この小さな王国とその周辺の人たちが、貧しい人でもみな靴を履いているのは、彼とアニーが全ての町を訪れたからだということです。
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Talking Rabbit with Shovel by Kanae Fuyushiro Copyright (C) 2003